パーキンソン病では、4大症候(固縮、振戦、無動、姿勢反射障害)が有名です。もちろんこれらはADL障害を引き起こすのですが、それに加えて、他の原因によってもADLは障害されることがわかっています。今回、パーキンソン病の脳科学とADL評価についてまとめていきたいと思います。
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目次
パーキンソン病のメカニズム
パーキンソン病を考える上で、重要になるのは「大脳基底核」です。
大脳基底核は淡蒼球、被殻、尾状核からなります。
広義の捉え方として、中脳黒質や間脳の視床下部を含める場合があります。
随意運動実行の中で、大脳基底核は運動の開始や停止をスムーズにしたり、運動が滑らかになるように調節する働きがあります。
大脳基底核は、大脳皮質-大脳基底核-視床-大脳皮質でループを形成し、運動調節を行っています。
そのなかで、大脳基底核は視床を介し、大脳皮質にブレーキをかけて(抑制)います。
このブレーキの調節がされることで、我々はスムーズな運動が行われているのです。
パーキンソン病は、大脳基底核からの抑制が強くなりすぎることが原因で、様々な症状を呈するようになります。
大脳皮質から大脳基底核に、運動に関する情報が伝えられると、基底核内の直接路と間接路の2つの経路に伝達されます。
2つの経路がバランスをとりながら調節することで、必要な運動のみを選択して実行し、正しいタイミングで運動の開始・停止が行えます。
直接路ではブレーキを緩めることで、必要な運動を必要な時間行えるようにします。
間接路ではブレーキを強めことで、必要でない運動を抑えます。
パーキンソン病では、黒質緻密部のドーパミンニューロンが変性・脱落しますが、ドーパミンの減少は、直接路の活動低下と間接路の亢進を誘発します。
このようなことにより、パーキンソン病における各症状が出現します。
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大脳基底核について
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大脳基底核は3つの部位からなる
大脳基底核は左右の大脳半球の深くに位置する神経核群(灰白質)をさします。
大脳基底核は、淡蒼球、被核、尾状核からなります。
広義の捉え方として、中脳黒質や間脳の視床下部を含める場合があります。
被核と淡蒼球はレンズ核として、まとめられます。
被核と尾状核は合わせて線状体といいます。
運動の調節と実行に関する大脳基底核の役割
随意運動が正確でスムーズに実行されるためには、一次運動野からの指令に加えて、大脳基底核や小脳の調節が重要になります。
一次運動野:
随意運動の実行を命令する。
大脳基底核:
運動の開始や停止をスムーズにする。
運動が滑らかになるように調節する。
小脳:
運動方向、タイミング、強さ、平衡感覚などを調節する。
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パーキンソン病と補足運動野(記憶誘導性の運動)の関係
補足運動野は、大脳基底核、頭頂葉との機能的な連結があります。
この機能的な連結により、補足運動野は頭頂葉の身体情報を用いて、大脳基底核に蓄えられている手続き記憶を用いての運動プログラムの形成に関わります。
前途しましたが、記憶や予測情報から運動をシミュレーションし、必要な運動の選択と不必要な運動の抑制をおこなうものが補足運動野になります。
これは、よく「記憶誘導性の運動」と呼ばれています。
補足運動野が障害されると、
・自発的な運動の開始ができない
*指示があれば運動を開始できる
・両手動作(特に左右で異なる動作)の協調性が低下する
・運動時の姿勢調節が不十分になる
・連続動作が不得意
・複数動作(粉末コーヒーの蓋を開けてコップにコーヒーの粉を入れ、湯を入れるなど)を適切な順序で実行できない
ということが生じる可能性があります。
パーキンソン病では、大脳基底核の機能不全が起こることから、上記のような症状がADL動作の阻害要因になることが予測されます。
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パーキンソン病と視覚誘導性運動
パーキンソン病では、例えば「すくみ足」に対しては、視覚的な刺激(線、光など)を提示することで、足が一歩前に出やすくなることがあります。
これは、補足運動野による記憶誘導性の運動が十分に機能していないのを、運動前野による視覚誘導性の運動が補完したために動作が行えたことを意味しています。
パーキンソン病では、視覚刺激を提示することにより、歩行やADL動作が遂行しやすくなるというのは、よく知られた話です。
ここで、運動前野について説明しておきます。
運動前野は頭頂葉の感覚情報をもとに運動をプログラムしています。
また、脳幹ともつながりがあると書かれていますが、小脳と関連して、誤差情報を利用しながら運動プログラムを修正する役割もあります。
そのため、運動前野は「視覚誘導性の運動」に関与するとされているのです。
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ADL、IADLは視覚誘導性運動と記憶誘導性運動により行われている
私たちは、普段様々な活動を行いますが、これは視覚誘導性運動と記憶誘導性運動をうまく組み合わせて行われています。
例えば、ズボンの上げ下ろしではズボンの前側は視覚が及ぶ範囲であり、ある意味視覚誘導性の運動と捉えることができます。
ズボンの後ろ側では、視覚が及ばない範囲であり、それは今までの手続き記憶を用いて(記憶誘導性の運動)上げ下ろしが行われます。
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パーキンソン病のADL・IADL評価の視点
作業療法ジャーナル増刊号「作業療法と脳科学」の中で、高畑先生がパーキンソン病の方のADLの困難さに対するエピソードをいくつも紹介されています。
その中で、パーキンソン病のADLに関する評価の視点として、
・無意識で動作すると行いにくいことがある
・複数動作が困難
・同時動作が困難(同時に2つのことをするなど)
・両手の協調性が低下する
・動作の素早い切り替えが困難
・視覚情報がないと動作が遂行しにくい
・視覚情報があっても、それに変化があると動作が遂行しにくい
・慣れていない環境では動作が遂行しにくい
ということを挙げています。
「無意識で動作すると行いにくいことがある」については、
大脳基底核は補足運動野等の高次運動野とともに動作学習や無意識的動作の表出にも関与していることが明らかになってきた
高畑 進一「パーキンソン病当事者の日常生活動作困難とイメージの重要性」作業療法ジャーナル Vol.45 No.7 2011
とあるように、大脳基底核の機能不全では、無意識レベルでの動作の遂行を困難にすることが伺えます。
視覚情報の変化への対応には、ボディイメージの低下を要因として挙げています。
このような視点を持ち合わせていると、ADL動作を観察する際の評価の視点や解釈の役にも立ちます。
また対象者に話を聞く中で、セラピスト側から上記のような視点に基づいた質問もできると思います。
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