運動維持困難やペーシング障害の評価法をご存知でしょうか。今回、運動維持困難やペーシング障害に対する評価法をまとめていきたいと思います。
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目次
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運動維持困難の概要と臨床場面での例
運動維持困難とは、
・目を閉じる
・舌を出す
・口を開ける
などの動作を一定の間持続させることができない状態をさします。
運動維持困難の定義では、運度麻痺によりそれらの動作が持続できないことは含まれません。
なお、「目を閉じる」「舌を出す」といった2つの運動を維持することができないことに関しては、「同時失行」と呼ばれることがあります。
運動維持困難では、麻痺側だけでなく、非麻痺側においても運動の維持が難しくなることが特徴です。
そのため、両手をバンザイするような両側課題において、両手をすぐに下ろしてしまうことが観察されます(*運動麻痺の場合は麻痺側のみ腕が落ちてきます)。
臨床場面で、運動維持困難がみられやすい場面は、いくつか考えられます。
・感覚検査ですぐに目を開けてしまう
・視野検査で目を動かさないように指示されてもすぐに動かしてしまう
このようなことでは検査で精査ができないので、とても困ったことになります。
感覚検査では、顔にタオルを被せるなどで対応可能ですが、視野検査に関しては困ったものです。
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運動維持困難とペーシングの障害は共存していることが多い?
運動維持困難とペーシングの障害(一定のリズムで動作を行ったり、ゆっくりと動作を行えない状態)と同時に症状がみられることが多いとも言われています。
2つの症状が合わさった全般的な作業行動の特徴は、粗雑・粗動・性急といったかたちで現れる。
たとえば、車椅子からベッドへ移るまでの一連の動作において、各動作の安定性や完了をみないまま、次々に動作を行ってしまう。
また、毛筆経験が長い人でも毛筆を行うと、毛筆に特徴的な流れや止め、はらいなどのリズムがなくなり、とても経験者とは思えない”下手な字”となる。
岩崎テル子他 「標準作業療法学 専門分野 作業療法評価学」医学書院 2005
私自身としては同時に組み合わさっている印象はなかったのですが、本を開いて確認をしているとこのような記述があり興味深かったため掲載しました。
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運動維持困難の評価法は?どのような検査を行うのか
Joyntらによる詳細な評価ツールもあるようですが、詳しくは書籍「高次脳機能障害学」を参照してください。
臨床場面では、セラピストが対象者に指示を出し、その運動が維持可能かを見ていく方法をとります。
運動としては、
・目を閉じる
・目を開けて舌を出す
・目を開けて口を開く
の運動を20秒維持することが可能かを評価します。
また、目を閉じる動作の維持は15秒以下で異常、
目を閉じて舌を出す動作の維持は20秒以下で異常とする考え方もあるようです。
なお、上肢の運動維持困難の有無を評価するには、前途しましたがバンザイ動作をの維持が可能かを見ていきます。
運動麻痺があっても、運動維持困難は非麻痺側に起こるとされていますから、非麻痺側の挙上を維持できるかを評価するようにします。
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運動維持困難に対するリハビリテーションの考え方
運動維持困難が認められる場合、基本動作やADLの動作学習が進みにくいことが指摘されています。
そこで、ひとつの方法として考えられるのが自己教示法を用いた訓練方法です。
これは、「高次脳機能障害を有する左片麻痺患者への安定した立位保持獲得への取り組み」を参考にしています。
自己教示法とは、簡単に言うと、自分に言い聞かせるようにするアプローチ方法です。
自己教示法は、元々多動児に対して行われていたものを、前頭葉損傷者に適応したものです。通常内的に行われる自己モニタリング過程を代償する内的補償の1つとなります。
内言による行動調整を重視したLuria(1981)の理論を基盤としたもので,これを用いた訓練では,課題遂行中の患者にその実行手順を逐次明瞭に外言化させることから始まり,訓練経過ともに徐々に外言化を弱め,内言化を導いていく.
柴崎 光世「前頭葉機能障害の認知リハビリテーション」明星大学心理学年報 2012,No.30,23―40
自己教示法では、他の場面への般化も起こりやすいとされています。
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Aldermanetal.(1995)は,自己モニタリング訓練による訓練効果は比較的ゆっくりとあらわれるものの,TOOTSやレスポンスコストといった行動療法的手法と違って,他の環境への訓練効果の般化が起こりやすいと述べている。
柴崎 光世「前頭葉機能障害の認知リハビリテーション」明星大学心理学年報 2012,No.30,23―40
詳しくは、以下の記事を参照してください。
自己教示法による遂行機能障害のリハビリ
方法ですが、維持したい運動課題に対して、「自分で◯秒数えながら運動を継続して行う」というように自分で数えながら課題を維持させます。
例えば、座位でバランスを要しない状態での運動維持課題から、立位でバランスを要する運動維持課題など、難易度を段階的に調整することも考えられるでしょう。